The Cheserasera『dry blues』インタビュー

メジャーを離れ、自主レーベルを立ち上げてリリースした新アルバム『dry blues』。
新たな門出となる作品のテーマには、ソングライターである宍戸翼(ヴォーカル/ギター)が常に思い悩み、歌い続けてきた“愛”を選んだ。
アルバムの口火を切る『I Hate Love Song』には、名前のない感情を描くことに対する彼なりの決意を込められている。
一方でリードトラックの『Blues Driver』では、愛と共に宍戸が葛藤し続けてきた、もうひとつの命題“大人になること”を描く。
そしてバンドにおける2つの命題と改めて向き合うことは、彼らの楽曲の本質を浮き彫りにし、表現することへの飽くなき探求心を掻き立てたのだった。
3人が『dry blues』に込めた想いとは。唯一のメンバー全員インタビューをお送りします。(取材・文:イシハラマイ)

1枚のCDにおけるメンバーの濃度が高まっている(西田)

――今作『dry blues』は自主レーベルを立ち上げ、インディーズに戻ってのリリースとなりました。まずはその経緯から伺います。

宍戸:前作『Time To Go』をリリースした後でメジャーとの契約を続けるかどうかを話し合いました。
そこで事務所から時間をかけてもいいからフルアルバムを作って、自主レーベルを立ち上げてリリースしたらどうかと言ってもらったんです。

――メジャーでの2年間はバンドにとってどんな時間でしたか?

宍戸:1年目はメジャーとか業界に、なんとか喰らいつこうとして体調を崩したりもしました。
あと、どこまで自分たちの主張や意見を言って良いのかが分からず、探ってしまっていたんですよね。
それで結果として良いコミュニケーションが築けなかった。そこで改めて話し合いを持って、2年目からは自主性を持って主体的に取り組むことを始めたんです。
そうしたら気持ちが変わって、ライヴの空気もどんどん良くなっていって。
今回事務所が自主レーベルでやってみないかと言ってくれたのも、そういう活動を評価してくれたからじゃないかな、と思っています。
だからメジャーで活動したことは、本当に良い経験になりました。

――今作はジャケットやMV、セルフライナーノーツにまでメンバーが携わった、いわば手作りのアルバムとなりました。作ってみた感想はいかがですか?

宍戸:すごく合ってるんじゃないかな、と。作り終えて発売までこぎ着けて感じたのは、僕たち3人は、責任が自分たちにあることがガソリンになるということですね。

美代:幸いにもやりたいことがあって、それをやっても許される場があるのは幸せなことだと思います。
自主レーベルに関しても、自分たちがやりたいことをやるためには、それが最善なんじゃないか、と周りがアドバイスしてくれて。
自分たちで自発的に発信することもそうなんですけど、チームとしての濃さを感じているんですよね。それがメジャーとの一番の違いかな。今はひとつひとつのことが濃い。

西田:確かに濃さはありますね。今までは1枚のCDに対して自分が関わっているのは音のデータ、つまり中身の部分だけだったんですよね。
あとはせめてジャケット写真を撮影してもらうくらいで。だから他の部分って実はちゃんと見えてなかった。
でも今回は目の前で出来上がっていく感じがしたので、1枚のCDにおけるメンバーの濃度が凄く高まっているという印象です。


一番エッジの効いたものをまずは出したかった(宍戸)

――まずは『dry blues』のテーマである“愛”を冠した曲、「I Hate Love Song」について伺います。
先行配信をしたり、アルバムの1曲目に据えたりと、この曲で口火を切りたい、という思いがあったのでしょうか。

宍戸:単純にバンドアンサンブルとしてバンドの持ち味が凄く発揮できている曲ですし、一番エッジの効いたものをまずは出したかったんです。
アルバム全体は優しさに溢れたものになっているんですけど、だからと言って今作で丸くなったと思われたくなかったんですよね。

――確かに、ここまでストレートなロックサウンドは久々な気がします。

西田:ロックな気持ちはいつもあるんですけど、言われてみればここまでストレートなのは久しぶりかも知れません。
従来の僕だったらもっとラインを動かしたくなるんですけど、でも今回はそこに正解が観えなかったので。

美代:僕としては、リリースを重ねる中でThe Cheseraseraとしてのリード曲の作法みたいなものが分かってきて、その方法論で取り組んだ曲ですね。
でも楽曲の肌触りや歌詞の尖り方は「Drape」を思い出します。そういう意味では原点回帰なのかもしれません。


分かりきってることは、わざわざ歌にする必要はない(宍戸)

――そして「I Hate Love Song」は、歌詞がかなり印象的でした。愛しさもある一方で、苛立ちも隠せないという、失恋の傷にカサブタが出来る前特有の、生々しさを感じます。
なぜ、このような感情を描こうと思ったんですか?

宍戸:きっと誰もが感じたことはあると思うんですよね。でも今まで誰も、それを言葉にしてこなかった。だからこそ、そういうものを言葉にしていきたいんです。
僕は実際に経験したことじゃないと歌詞にできないし、しちゃいけないと思っていて。だから1曲にひとつは絶対にノンフィクションがあります。
元々は自分の中にある誰にも言えないようなことを歌にしていて、それがだんだんお客さんに届くようなになって。「自分だけじゃないんだ」って思えるようになったんですよね。
だから僕は曲を通して「こういうことあるよね」って問いかけるし、それに対して「あるある!」っていう歓びを感じてもらえたらいいなって。

――説明のつかない感情ほど、一人で抱えてしまうもの。The Cheseraseraの音楽は、そんな人たちの理解者になっているのだと思います。

宍戸:そうなっていたら一番嬉しいですね。僕が聴いてきた小田和正さんや井上陽水さん、GRAPEVINEの田中(田中和将・Vo/Gt)さんの作る歌にはそういう部分があって。
自分もそうありたいと思って詞を書いてきました。歌が生まれる理由って、そこだと思うんです。分かりきってることは、わざわざ歌にする必要はないから。
あと自分でも面白いと思うんですけど、ひと言で言い表せない気持も、音楽にすると表現できるんですよね。


宍戸君が観た角度はバンドだけど、バンドに関わっていない人にも届く曲(美代)

――リードトラック『Blues Driver』は宍戸さんが“愛”と同様にずっと書いてきた“大人になること”への葛藤が込められていると感じました。

宍戸:例の如く、って感じですよね。やっぱり今回もこういう曲は入ってきました。
決して明るく突き抜けた曲ではなかったので、リード曲にはふさわしくないとも思ったのですが、僕の中ではグッとくるものがあって。それでゴリ押ししたんです。

――この曲は宍戸さんが大学生の頃に、バンドをやめた友人からBlues Driverという名前の機材を譲り受けた思い出が元になっているそうですね。

宍戸:僕の青春が詰まった曲ですね。その頃のことももちろん思い出しますし、近しい人でバンドをやめた人もいっぱいいるので、その人たちのこととか……
ごろごろ機材を転がしてバンドをやっていた頃のことも思い出して書きましたね。

――バンドを続けている中で、美代さんや西田さんもそういった経験をされてきたと思います。やはりこの曲に対する思い入れは強いですか?

西田:そうですね。僕はバンドばかりやってきたので、昔からやっている人が続けていてくれたら嬉しいんですよね。
でもやっぱり、昔一緒にバンドを組んでいた人が、仕事を持ったり結婚をしたり……ということもあって。そんなこと考えながらライヴしちゃってますね。

美代:僕にとってはバンドマンに対するアンセムというよりは、青春や昔あった思い出を蘇らせる曲なんですよね。
だから、宍戸君が観た角度はバンドだけど、バンドに関わっていない人にも届く曲だと思うんです。

宍戸:そうですね。だからこうしてメンバーそれぞれも思うところが違うように、音楽として聴いた時に、
歌詞で歌われている言葉とは違う感情も想起させられたらいいな、と考えてはいました。


曲は“歌と伴奏”ではない。言葉と音楽が合わさることでより深い感情に手が届く(宍戸)

――音楽として聴くことで、歌詞がより雄弁になるということですか?

宍戸:歌詞そのものというよりは、その後にある余白の部分を表現できるというか。
例えば「Blues Driver」の Aメロには<子供じゃあるまいし>と<大人じゃあるまいし>って歌詞が出て来るんですけど、実際に伝えたいのはその言葉自体じゃなくて詞の後にある余白の部分。
「自分は子供のままなのか、大人になったのか……どっちなんだろう」っていうモヤモヤした感覚なんです。
例えば人とのコミュニケーションにおいても、沈黙から読み取れるものがあったりもしますよね。

――そういった余白の部分を語るのが、音楽の役割ということですね。

宍戸:そうですね。だから“歌と伴奏”じゃないんですよ。それは『dry blues』を作り終えて、すごく感じていることなんです。
歌詞として言葉になっていない気持ちみたいなものが、音楽とかオケとかメロディーと一緒に届けられるようなアルバムになったんじゃないかと思っていて。
言葉だけ読んで全てを解釈できるものじゃなくて、曲と一緒に聴くとさらに深いところにある感情に届く。それが詩集ではなく、CDを出している意味だと思っていますし。
詞の言葉たちをどう演奏するかが、音楽の面白さだから。その面白みは今作で最も深められた部分ですね。曲を作る上での理想に少し近づけたな、と思っています。

美代:宍戸君が言っている余白というのは、曲作りの上でも必要なものだと思いました。

――どのような場面でそう思われましたか?

美代:今回、自主レーベルになったこともそうだし、レコーディングのエンジニアの方も変わって、とてもリラックスした状態でアルバムを作ることができたんです。
それが個人的にはすごく大きかった。のびのびしていると、余白が生まれるんですよ。
余白があると「本当はこう思ってるんだろうな」って考えをぶつけても喧嘩にならないしね。

宍戸:ふふふふふ(笑)。

美代:余白でコミュニケーションを取るのは、本当は難しいことなんですよ。今までは、いきなり軸から、みたいな緊張感がずっとあったような気がして……。
だからリラックスできたことで、余白を活かした考え方ができるようになったんだと思います。その影響で演奏も新しいトライをすることが出来たし。

宍戸:今はすごく自由奔放になれているんじゃないかな。


作品や曲の中に自分の居場所が見出せるのは良作の証(美代)

――改めて『dry blues』はみなさんにとってどんなアルバムになりましたか?

美代:僕は「そんな風にとらえてたんだ」とか「これはこうも見えるよね」という多面性が多ければ多いほど、つまり余白が多いほど、良い作品になると思っているんです。
今回は自分の表現したいものを、その余白の部分にしっかりと混ぜることができたので、自分の中ではとても印象的な作品になりました。
作品や曲の中に自分の居場所が見出せるのは良作の証だと、僕は思っています。

――発売してもうすぐ2ヵ月が経ちますが、アルバムを聴いた方から“共感できる”という感想が多く届いているそうですね。
それはつまり、聴く人に取っても自分の居場所が見出せる作品になっているということだと思います。

美代:そうだといいな。僕がイメージできないような、色んな景色や映像まで見えてるんじゃないかな、と思っています。

西田:人って泣いてるときも、笑っているときも……怒っているときも、迷いって探せば絶対にあると思うんです。
これ、という着地点が見つからないことの方が多いと思う。でも今作は僕の中で、今までで一番、気持ちが良い方向に向いている割合が大きいんですよね。
あとこのアルバムを録り終えた後で僕のジャズベースが壊れてしまったので……。その音がしっかり収録された遺作的なものでもあります(笑)。

――宍戸さんはいかがですか?

宍戸:今までの作品の中で、最も多くの感情や人生が詰まったアルバムになりました。
今まで積み上げてきたものの成果を残すことができたと思っています。
歌についても、息遣いとか、涙ぐんだ時の声帯の感じとか、怒ってる時の声の出し方とか、そういうところまで追求していて。

――なぜそこまで追求しようと思ったんですか?

宍戸:ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」という曲があって“素晴らしい世界”だと歌いながらも、それだけじゃない感じがするんですよ。
まるで走馬灯のように人生が見えてきて。歌う表情とか声の感じで、驚くほどいろんなものを思い出させてしまうという。
だから自分もそんな歌が歌えるようになりたい。今作を通じてそこへの初めの一歩が見えた感じがしています。


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